東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2856号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一 控訴人が一般化学油脂製品の製造販売等を目的とする株式会社であり、昭和三七年一月頃からその製造する研磨剤、艶出剤、洗滌剤に本件商標を付して販売し、かつその製品の一部に「日新化学工業株式会社リスロン商事部」の名称または「リスロン総合メーカー」の文字を使用していることは、当事者間に争いがない。
そして<書証>を総合すれば、控訴人会社はその製品であるクリーナー、ワックス、洗剤、艶出し剤等の容器、包装および広告宣伝のためのパンフレット等に、本件商標を付するとともに、「リスロン」と片仮名で、または「RISURON」とローマ字で、横書きした表示を付していることを認めることができ、これらの表示および前記「日新化学工業株式会社リスロン商事部」または「リスロン総合メーカー」の表示と対照し、かつ本件商標の構成に徴するときは、本件商標は、容易に「リスロン」の称呼を生ずべきものであることを肯認することができ、他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。
右のとおり、本件商標から「リスロン」の称呼が生じうること、控訴人会社の製品には、本件商標とともに「リスロン」と片仮名で、または「RISURON」とローマ字で、横書きした表示が用いられ、かつ、製品の一部に「日新化学工業株式会社リスロン商事部」または「リスロン総合メーカー」の表示が付されている事実を総合して考えると、「リスロン」の表示は、本件商標と相まつて、控訴人会社の商品につき、自他商品を識別すべき機能を具有するものというべく、したがつて、不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」(以下「商品表示」という)にあたるものと解するのが相当である。
二 しかし、右「リスロン」の表示が、さらに、「広ク認識セラルル」控訴人の商品表示といいうるか否かについては、なお検討することを要する。<中略>
昭和三三年七月、ワックス、クリーナー等の製造販売を目的とするリスロン化学工業株式会社が設立され、同社は洗滌剤リスロン・エイトを製造して、大阪、京都、岐阜、仙台、広島、福岡等に支店または支社を設け、所属の外交員によつて外交販売をしていたが、昭和三五年八月頃、火災により本社、工場を焼失して倒産してしまつた。そこで、昭和三五年一一月、同種商品の製造販売を目的とする訴外会社が設立され、リリスロン化学工業株式会社の事業を承継したが、その際、従前の支店ないし支社を独立させて、独立採算制の企業体とし、訴外会社の特約代理店として、控訴人会社に下請製造させた商品を納品してこれを販売させるという営業方式を採つた。これら独立企業体の特約代理店は、個人企業のものもあれば、会社組織のものもあつたが、いずれも、「株式会社中国リスロン」「関西リスロン」、「リスロン商事」、「九州リスロン販売株式会社」、「リスロン神戸」、「北海道リスロン株式会社」のように、「リスロン」の表示を含む商号を用い、従前同様に、もつぱら外交販売方式をとつていた。しかし、訴外会社もまた、運転資金に窮し、昭和三六年末頃、控訴人に対する七〇〇万円の債務を負担したまま倒産するに至り、昭和三七年になつて、控訴人が訴外会社の営業一切を承継し、従前訴外会社が控訴人から購入して特約代理店に納品していた五品は、控訴人から直接特約代理店に販売することとなり、かつ控訴人は、その営業に関し本件商標を使用することも容認された。また、控訴人は、従前からの特約代理店とは別に、各地に控訴人の支店ないし営業所を開設し、それらの店舗に「日新化学工業(株)リスロン商事部」または「リスロン東京支店」等の表示をしたが、商品の販売方式は、依然として店頭売りをせず、外交員による訪問販売方式を採用し、したがつて、顧客の範囲は固定して、建材屋を主とし、学校、官公署および銀行等に限られていた。また、洗剤、ワックス等のメーカーは、リンレイ、ジョンソン等二、三の大手メーカーのほかは、弱小メーカーが乱立しており、控訴人もその一つであつて、「リスロン」は同種商品のなかでの銘柄品とはいい難く、「リスロン」といつただけで需要者間に通用するとはかぎらないものである。控訴人の昭和四一年度の売上総額は約七、二〇〇万円、純益約三〇〇万円であり、広告宣伝費は売上額の二、三割を計上しているが、たとえば、昭和四〇年五月一日から同年一〇月三一日までの間、文化放送で、一カ月五二回の割合で一回五秒間ずつ「リスロンのカーワックス」というラジオスポットを入れ、また、昭和四二年三月一五日から同年六月九日までの間、計二六回にわたり、一回五秒間ずつ、九州朝日放送および日本テレビにおいて「リスロンパール」のテレビスポットを入れて、宣伝したことがあつた。<中略>
以上の認定によれば、控訴人が訴外会社の営業を承継して、研磨剤、艶出剤、洗滌剤に本件商標を付して販売しはじめたのは、昭和三七年以後のことであり、その営業規模は必ずしも大きいものとは認めがたく、また、その商品販売方法も、特約代理店または自己の支店ないし営業所のいずれにおいても、外交販売員により特定の顧客に訪問販売するだけであつて、一般の店頭売りはしないのであり、広告宣伝に充てる費用も、その手段方法においても、特段に「リスロン」の表示を周知させるに足りる程度のものとはいいがたいものであり、これらの諸点を考え合わせると、「リスロン」の表示は、控訴人において前記のとおりその製品にこれを付して販売し、またその広告宣伝をしていたにもかかわらず、未だ取引者または一般需要者間に広く認識された控訴人の商品表示ということができる程度のものではない、と認めるのが相当である。
三 次に、「リスロン」の表示が、不正競争防止法第一条第一項第二号にいう「広ク認識セラルル」控訴人の「営業タルコトヲ示ス表示」(以下「営業表示」という)といいうるか否かについて検討する。
<証拠>を合わせ考えると、もと訴外会社の社員であつた山本凌吉がリスロン商事株式会社の商号で水性防塵剤の営業行為をしている事実があること、控訴人会社の特約代理店の一つであるリスロン神戸においては、「リスロン」の表示を用いた控訴人会社の商品と、「センコー」の商標を付した被控訴人会社の商品とを共に取扱つており、また、同じく特約代理店である名古屋市のリスロン商事では、控訴人会社の商品のほか、児玉化学工業株式会社の製品であるシリコンポリッシュも取扱つていることを認めることができ、他に右認定を動かすべき証拠はない。
右認定の事実に、前項認定の控訴人会社の営業開始の経緯、その営業の規模態様および商品の広告宣伝状況等の諸事情、就中、商号中に「リスロン」なる表示を用いた特約代理店が独立企業体として数多く存在していること等を考え合わせると、「リスロン」の表示が、すべて控訴人会社の営業行為に関連を有し、かつ、取引者または一般需要者をして専ら控訴人会社の営業を示すものと認識させるに足るものとは、とうてい認めがたく、したがつて、「リスロン」の表示をもつて、広く認識された控訴人の営業表示ということができないことは明らかである。
四 以上の説示によれば、「リスロン」の表示が広く認識された控訴人会社の商品表示または営業表示であることを前提として、不正競争防止法第一条第一項第一号または第二号の規定に基づき、被控訴人会社に対し、その商号の使用禁止および商号抹消登記手続(予備的に他の商号への変更登記手続)を求める控訴人の本訴請求は、すでにその前提を欠き理由のないものであることが明らかである。
よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条に則りこれを棄却すべきものと認め、主文のとおり判決する。
(青木義人 石沢健 宇野栄一郎)